あなたは何様ですか?

今でもはっきり覚えています。コーチングを日本で学べるようにしてくださった第一人者である伊藤守さんが、あるコーチング研修でデモセッションされた衝撃の一言を。

ある企業で係長をされていらっしゃるAさんがクライアントとして手を挙げられ、公開で伊藤守さんのコーチングを受けられました。

正直、今まで想像していたコーチングとは全く違うもので、相手が反応する瞬間を喜んでいるかのように見えてしまいましたが、後から冷静にやりとりのメモをみると、質問が短いし、相手の本質を突いているようにも見えました。

内容は詳しく話せないのですが、衝撃の一言の出た背景を少しお話ししますと、

Aさんの部下で、成長して欲しいと願っている部下が居るのですが、どうも思った以上に成長しない。どう関わっていいのか違う視点を持ち帰りたいとの事で、部下の事について語っていらっしゃいました。

すると、伊藤さんが、話の途中で止めて
伊藤さん「悪いんだけどさあ、あんたは何様?」
Aさん  「えっ?!どういう事ですか?」
伊藤さん「だって、聞いていると、『成長させたい』とか『◯◯してあげている』とか、凄く上から目線に聴こえるんだけどさあ、あんた何様?」
Aさん  「・・・・。言われてみたらそうですね。かなり下に見ているかもしれません。」
伊藤さん「で?(部下である)彼はどうしたいって?」
Aさん  「成長したいっては言ってますけど・・・」
伊藤さん「けど何?」
Aさん  「いえ、『けど』って言っちゃっただけです。」
伊藤さん「そんなはずないでしょ。何か思っているから『けど』って言ってるんじゃないの?考えてごらんよ。」

この時点で、ちょっとだけ私自身にも「伊藤さんこそ何様?」って気がしていたのは、きっとその頃の私も、部下に対してAさんと同じような事を思っていた時期だから反応してしまっていたのでしょう。

Aさん  「ああ、強いてあげれば、成長は無理って思っているかもしれません。」
伊藤さん「でしょ!そう思ったよ。で、どうしたいわけ?」

質問が短いだけに、勝手に自分に置き換えてしまい、自分だったらどう応えるだろうか?なんて、考えてドキドキしてしまいました。だから、とりあえず、やりとりはメモを取っておく。頭は完全に自分の思考の中へ・・・・。

やりとりは続き、最終的には、関わる側のAさんの思い込みが明確になったと同時に、自分がどう見えていたのかも解ったという事でした。
そのデモンストレーションでは、そんな事が起こりましたが、当時の私は、フィードバックが苦手で、相手に嫌われたらどうしようとか自分の事も大切にしようと思っていたと思います。

けれども、伊藤さんがセッション後にこんな事をおっしゃいました。
「コンフリクト(戦うような反応)を起こさせるようなコーチングで本音が見えてくることもある。相手に嫌われるかどうかより、相手のゴールに向けてコミットしているのがコーチ。どうせ僕が代わりにやれることじゃないんだからさ。」と。

伊藤さんのコーチングスタイルという事もあるのかもしれませんが、後半の『相手に嫌われるかどうかより、相手のゴールに向けてコミットしているのがコーチ。』というフレーズには、胸が痛くなりました。

けれども、このデモンストレーションを見られたことで、私はフィードバックに対する抵抗がなくなりました。
また、セッションを受けたAさんと同じ気持ちになってしまった「あんた何様?」は、私が自分の立ち位置を確認する時の大切なフレーズとなりました。

相手を尊重しているつもりで、ついつい下に見ていた部下に対し、「私は何様のつもりなんだ?」と問いかけると、あらら?相手への尊重が足りなかったなと振り返る事もできるようになりました。
コーチングの時には、この問いかけがなくても、すごい方々ばかりだと思っているので、大丈夫なのですが、部下となるとどうも・・・・。また、講師である時も、たまにこの問いかけはするようにしています。「私は何様?」

上司として伝えるべきことは伝えるけれど、相手と対等に向き合いたい時や、相手に主体的に動いてもらえることを期待している時には、その意向も伝えてから、自分のスタンスを確認するようになりました。

あなたは、リーダーとして、先輩として、親として、など、いろんな場面で、相手とどのような関わりを望んでいらっしゃいますか。
そして、その時のあなたは、どんな立場やスタンスで接していらっしゃいますか。
「あなたは何様ですか?」

ちょっと強めの質問かもしれませんが、一度、我が身を振り返ってみませんか。

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