経営者の視点と社員の視点の大きな違い

3月に入り、新入社員を迎えるリーダーのための研修や講演、新入社員向けの研修などが増えてきています。個人で事業をしている現在の私には、有難い事で、毎年たくさんの出逢いに感謝しつつ、私の過去の経験や、経営にたずさわっている経験も含め学び合いの時を過ごさせていただいております。

その中で、いつも感じる違和感・・・。
特にリーダー研修の時の違和感をお話できたらと思います。

私は、自分自身が中小企業に勤務し、経営まで携わらせていただく経験までさせていただいたからだとは思いますが、中小零細企業に携わらせていただく機会が多いです。
とは言え、研修や講演を企画できるほどなので、リーダーたちが集まる団体であったり、それなりに人数のいらっしゃる企業や、業績をより上げたいと思われている企業からのご依頼が多いです。

そうした事もあり、良く感じるのは、「経営者の視点」と「社員の視点」の違いです。

どの企業様も、経営をされていらっしゃる方々は、社員を大切にされていらっしゃいます。温かい方々ばかりです。けれども、社員からすると「業績にしか興味がない」「社員を駒としか見ていない」と思われている事も多いのです。
話を伺うと、正直、事務員から経営まで携わってきた私にはどちらも正しいと思えますし、どちらも理解できます。

双方にその思いを代弁してあげたら良いと思われるかもしれません。私もそう思って、伝えてみたこともあります。でも、結局、目の前に見える経営者の言動と真意を上手く伝えられなくて、「そうは言いますけどねえ」と言われてしまってました。
反対に経営者にも「社員は社員として、凄く前向きに取り組んでいるんです」と伝えても、「権利の主張ばかりしているように見える」「やってくれているのは解るけど、本気になってくれているように感じられない」など仰る方が大半です。

この解るんだけど、分かり合えない。でもお互いに真剣に取り組んでいて、真剣に考えているのに。と言うもどかしさや、分かり合えてないようで、そこで頑張り続けている事への違和感というものを感じていたのです。
「じゃあ、辞めれば」と言われた事のある私には、同じ言葉を発したら、この方達は辞めるだろうか?きっと辞めたくないから言っているのだろうと。

だとしたら、この矛盾を解消するのは何か。「視点」であることは間違いない。その視点をどう説明したらいいのだろうか。

そんな時に、マズローの欲求の五段階の説が目に入ってきました。

上記の中の安全の欲求についてですが、
社員=安全安心とは「生計を成り立たせたい」「安定した生活」などもそうかもしれませんが、個人の安心と安全を考えませんか。
経営者=安全安心とは「企業の存続」「長期的な企業の安定」を考えます。

そうなると、社員で居られる事によって、社員は次の段階に進み、社会で認められたい、良い評価を得たい、良い生活をしたい、などの高次欲求に意識が向くのに対し、経営者は、企業の業績が順調であれば、社員により良い待遇をとかんがえられるのでしょうが、順調でない時には、そもそも基本的な欲求である安全安心の欲求が満たされていないわけですから、そこに意識を集中してしまうのです。

結果として、「業績ばかり」と見られてしまうのですが、決して社員の事を考えていないわけではなく、そこに意識を注ぐゆとりがないだけなのだと思います。

では、業績の良い会社に行けば良いのか。
答えは「そうだとは言い切れない」という事です。

私は、前の職場の社長に教えていただきました。
「今、みんなを厚遇することは簡単な事だ。繋ぎ止めると考えたら、そうしたいのは山々だ。でも、経営者は『ずっと続けてもらえる企業』を目指しているから、今一瞬良いからと言って、すぐにお給料や賞与に反映させられないと判断する時もある。数年で潰れてもよいと思うなら、みんなの給与を上げる。長く働ける会社であってほしいなら、もう少し企業の業績が安定するまで我慢して欲しい。あなたならどちらを選ぶのか。」と給与をあげて欲しいと言ってきた社員に話されていました。

その話を伺っていたので、考えている「長期」の考え方にも差はあると感じたのだけれど、根本は、マズローの安全安心の欲求が、「企業と社員の安定」にあるのが経営者なんだと思うと、気前よく厚遇してくださる経営者は、長期的視野に立ってもそうされているのか、それとも短期でそうされたのかで、違う気がします。
つまり、本気で社員のことも企業の事も考えてくれている経営者であって、今たまたま業績が不安定な場合には、「企業の安定」に集中しているように見えるかもしれませんが、企業の安定を社員と一緒に作り上げられたら、その後はすごく社員を大切にしてくださるのではないでしょうか。

視点の違いが伝わるか解りませんが、私は、決して物理的に厚遇されたわけではありません。
しかし、経営者の思いを信じる事ができたので、「企業の安定」に向けて、やれることはやろうと思えましたし、それによって社員に少しでも反映されるようになった時に、他の社員も一緒にベアがあった事は、嬉しかったです。

「企業の安定」があるまで、5年間の昇給なし。でも、その当時があったから、今、企業が存続してくれている事を誇りに思います。その一旦を担えたのではないかと自負しています。
今、業績が良く、安定してきた企業に継続的に関わらせていただいているのですが、その企業様は苦しい時期を乗り越えて、今、社員に凄く還元できる企業になりました。社員も嬉しいでしょうが、それ以上に嬉しいのは実は経営者なのです。
「私は社員を大切にしています」ということを形として示すことができるのですから。

その社長もおっしゃいます。
「苦しい時期に支えてくれた社員が居たから、今のように還元できるようになった。思いがあるのに、形にできない時期ほど経営者として苦しい時はなかった。ずっと売上、利益と言ってきた私を憎んだ人も居るだろうけれど、その時期のおかげで今がある。また社員のために、これから売上も利益もうみだし続けなければならい。楽になる時はない。けれども、社員に還元できる今を続けられるように、社員に協力してもらいたい。」と。

苦しい時期も存じ上げていますので、発する言葉も表情も本当に別人のようです。それは、「企業の安定」を願って、社員の安定に意識を向けられない悔しさだったのかもしれません。

さて、今のあなたの企業は段階でどの段階ですか。
もしも企業が「安定」に向けて頑張っている時期だとしたら、その一員として乗り越えてみませんか。その先には必ず社員の安定を願う経営者の思いを知ることができると私は思います。

今、安定に向けて頑張っている経営者様には、是非、「社員の安定」に意識が向けられる段階まで進めるように、社員と一丸となって乗り越えていただきたいなと思います。そのためにも必要な情報は、社員にも共有していただきたいです。社員が本気になれる材料を提供していただきたいものです。

二人三脚ならぬ、n人(n+1)脚で、欲求の段階を上げ、それを維持できる企業体質を作り上げていきたいものですね。そのためには常に変化も続けなくてはならず、楽な時はないと思いますが、そのかわりに得られる「何か」は、人ぞれぞれ違うでしょうが、きっと大きなものであると私は信じています。

さて、私も企業様のために、私ができること、できるようになった方が良い事を模索しながら、関わり続けたいと思います。

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